手品

続き。

手品は今となっては完全にやらなくなってしまって

ブランクも何年もあります。

 

けれども、元々は手品をずーっとやっていました。

中学のころから始めて、引退するまで計7年ぐらいは真剣に打ち込んでいたと思います。

 

ずっとやっていたから、大学に入ってからは手品を仕事として始めてお金を稼ぎ始めた、という流れです。

 

働いていたのは新宿のゴジラの通りにあるマジックバーと、

あとは都内のさまざまな飲食店(居酒屋からイタリアンまで。代々木のサルバトーレクオモなど。)でやっていました。

場所によって給料体系は違うのですが、

 

特にメインで働いていたところは完全歩合制で

時給なんとゼロ円

というかなんなら

「この場所使わせていただいてありがとうございます料」

として1日2000円払う必要があり、交通費も出ません。

 

つまり毎回マイナス3000円くらいからのスタートということです。

 

ではどうやって稼ぐのか?と言うと

見てくれたお客さんからのチップで稼ぎます。

 

しょうもない子供騙しのマジックをやったら1円ももらえないし、

逆に「うおおおおおお!」と忖度抜きに感動してくれるようなマジックができれば、

お金がもらえるということです。

 

最初のマイナス3000円と、お客さんからのチップでもらった分を合わせて時給換算すると平均5000円ぐらいに落ち着いていたという感じでした。

調子いい日は時給1万~くらい。

瞬間最大風速で一番勢いあったときが時給2万円という感じです。

 

 

そして手品師として働いていた経験から学んだことが色々ありまして

 

一つは「固定の賃金が保障されてないところで働くことへの恐怖がなくなったこと」です。

給料が保証されていないことへの恐怖の消失

始める前は

「歩合制ってことは、調子悪いと時給1000円切っちゃうようなこともあるのかな…」

と不安で仕方がありませんでした。

 

しかし、いざ始めてみると、めちゃくちゃお客さんにウケるし、
瞬間最大風速とはいえ一時間で2万円貰えるようなときもあるし、

なんだかんだで平均時給として計算しても5000円ぐらいは行くしで、完全な杞憂であることが分かりました。

 

もちろん、2年ほど続けていたので、
時には飲食店にほんっとうに人が少なくて調子の悪い日だってもちろんありました。

それでも、どれだけ調子が悪い日でも2年間働くなかでさすがに時給1000円を切る日は一度もありませんでした。

 

この経験から、

普通に考えると

「固定で保証された収入があることは安心だ」
「収入に変動があることはリスクだ」

と捉えがちですけれども、

 

しっかりと何かの分野の腕を磨いて、

「確かに変動はあるけれども、どれだけ調子悪くて収入の下限のときでも、
『保証された収入』を下回らないのであれば、これってリスクでもなんでもなくね?」

ということを身をもって強烈に学ぶことができたのは、
手品師として働いて良かったことだと感じています。

 

「どれだけ価値を出せたかで跳ね返ってくる結果が全て」というシビアな価値観

次に、手品師として歩合制で働いていたことで

「結局、どれだけ価値を提供できたか(バリューを発揮できたか)で自分に跳ね返ってくる結果だけが全て」

というシビアな価値観もこのときに身につきました。

 

時給がなくて、お客さんからもらえるチップでしか稼げないということは、

とにかく見る人を全力で楽しませないといけないということです。

 

手品はマジックバーでやることもありましたが、

マジックなんて全く関係ない飲食店でやるときも多かったです。

 

その場合は、お客さんに「手品いかがでしょうか」と打診するところから始まるわけですが

別に飲食店と言ってもマジックバーでも何でもないので、
お客さんは手品を見に来ているわけではありません。
ただ料理を食べに来るつもりで店に来ているのです。

つまり頭の中に手品の「て」の字もない状態ということです。

 

だから、ただ声をかけるだけだと

当然「うちのテーブルではやらなくていいです。」

と99%断られます。

 

そんな逆境から、一瞬で

「お、見る価値ありそうだな」と興味を惹き、
「見たいです!」の言葉を引き出す必要がありました。

 

そして収入はチップ制なので、
いかに「見ている人を本当に楽しませられたかどうか」がすべてで

しょうもない、つまらない手品をやったら当然0円です。

向こうは初対面の〝他人〟なわけだから、

「あんますごくなかったけど、頑張ってるの伝わったからチップあげるよ。」

といったような甘い世界ではありません。

 

見る側からしたら「俺なりには頑張ってるから」とか本当に知ったこっちゃないんですよね。

 

しょうもないマジックだったら当然お金は払わないし、
逆に「本当にすごい…!震えた…!」と心の底から感動してくれたら

感激して自然とお金を出してくれます。

 

とにかく四の五の言わず一切の忖度なしに、全力で相手のことを楽しませなければいけない。

そういうシビアな世界で戦っていたから、

「結局、どれだけ価値を提供できたか(バリューを発揮できたか)で自分に跳ね返ってくる結果だけが全て」

という考えを持てるようになりました。

好きなことを仕事にしても上手くいかないこともある

さらにもう一個学んだこともあって
それは「好きなことを仕事にしても上手くいかないこともある」ということ。

自分の場合は手品でお金を稼ぐことを2年弱やってたわけだけど
途中からだんだん嫌になってきちゃったんだよね。

元々は手品が純粋にめちゃくちゃ好きだったのに。

高2の夏休み、一番ピークだったときとか
マジで起きて14時間ひたすらトランプを触っては、
寝て、

また起きて14時間ぐらいトランプを触って…

という生活を3日間繰り返していたようなときもあった。

マジで純粋に手品をやることが楽しくて楽しくて仕方がなかったはずなんだけども、

手品を仕事にし始めてからは、なんか徐々に「あんまり面白くないな」っていう気持ちが大きくなっていってしまったんだよね。

自分はテクニカルな手品が好きだったりするのだけれども、
テクニカルであればあるほどお客さんにウケるか?
つまりは、貰えるチップが増えるか?収入が増えるか?って言うと

全くそんなことないんだよね。

ここで「自分がやりたい手品」と「一般的にウケる手品」に乖離があって、

ただ、お金を稼ごうと思うと自分がやりたいマジックじゃなくて一般にウケるマジックをひたすら毎回繰り返し続けなければいけないという状況になり、

なんかだんだん楽しいと思えなくなってきちゃったんだよね。

そのタイミングでちょうどWebまわりの収益が伸びてきたこともあって、
手品で稼ぎ始めてから2年弱くらいしたあたりで
「もういいや」と思って手品師は引退。

そっからはマジで全然やってない。

 

あと、最近自分が全然手品やらない理由の補足。

もう3年ぐらい全然やってないんだけれども、
それは上に書いたように「手品を仕事にしたらだんだん嫌気がさしてきた」っていうのもあるし、

あとは、やっぱり実際仕事で手品やってて、
お客さんからチップをバンバンもらえるくらいまで日々磨いて…ってなると

自分の手品にもこだわりが出てくるわけですよ。
(これを専門用語で〝めんどくさい人〟と言います。)

ということで、「手品やってる」って言うと、
飲み会とかで「えー!じゃあ何かやってよ!」って雑に振られるのが、

いつもこだわり持ってやってる自分としては「マジでダルいな」って毎回感じてて。
このやりとりめんどくさいなって思うようになったから、そもそも手品やっていることをすっかり言わなくなった。っていうのもある。

・・・

という、自分が手品にはまっていたころのお話でした。

もうここ数年、自分がすっかりマジックの話を一切しなくなったこともあり
しばらく忘れていたけれども

久々に当時のことを振り返って書いてみたよ。